「荒川中土手に自然を戻す市民プロジェクト実行委員会」の発足




  荒川は、昔はとてもきれいな川で、両岸には広大な干潟があり、ヨシもたくさん生えていました。そこには、たくさんの底生動物(水底に生活する動物)や魚、それを餌とする各種の水鳥たちが集まってきて理想的な生態系をつくっていました。ところが、高度成長の始まる1955年を境に工場排水が大量に川へ放流され、川の姿は変わってゆきました。干潟も埋め立てられ高水敷となり、中土手には中央環状高速道路が造られました。

94年、荒川河川環境モニターの野村圭佑さんが荒川左岸の総武線鉄橋付近の高水敷でミズアオイという珍しい植物が繁茂しているのを発見。「高水敷であっても、人工の池を造れば自然が回復するのではないか?」という話になり、建設省と江戸川区と市民の三者の合意によって1996年1月31日「荒川中土手に自然を戻す市民プロジェクト実行委員会」が発足しました。

第1回まで

建設省が提供してくれた池造りの場所は50m×150m。池は5つ、水深は20cm〜1mで、川からは水を引かず、自然に雨水を溜めるようにする。
2月8日までに表土を30cm掘り、池の形状線引きをする。その後、15日までに機械による荒掘りをし、確認する。
2月24日、待ちに待った市民の手による池作りの開始。
作業はまず、敷地内のクリーン作戦から。お昼は豚汁でお弁当。午後は少しでも雨水を溜めていこうと川に平行に20mほどの盛土を、スコップ1丁の手作業で行う。
第2回・1998年3月9日

池の前の柵の所に「市民で造る荒川五色池」と書かれた素晴らしい看板が取り付けられる。
少し前に雨が降って、一番深い池には30cmの雨水が溜まっていた。今後降る雨をもっともっと溜めるために、集水溝や水路を造り、盛土も伸ばす。
作業中、冬眠中のカエルとクロベンケイガニをシャベルで掘り起こしてしまう。もちろんそおっと土に帰してあげた。
第3回・1998年3月24日

春の息吹をあちこちで感じられるようになった。川寄りの池の柵の外側に50mほどの溝があり、そこに雨水が一杯溜まっているのを発見。これはもったいないとこの溝と池をつなぐ通水路をスコップでえっちらおっちら掘り、「通水」。集水路の拡張・整備や、見晴らし台の補強。また、五色池の各池5こに番号を付けた。
第4回・1998年4月14日

今回は今までで最高の46名の参加。多種多様な自然を願う「多種多様」な面々がこの池に集まって来てくれる。
さて、うれしいことに、私たちの五色池におたまじゃくしを発見。それも「うじゃうじゃ」と。前回「通水」した溝の所。ここの名称を、おたまじゃくしの「たま」とカエルの子の「子」と「湖」をダブらせて『たまこ』と名づける。鉄くずの回収や通路作り、みんなで一緒に汗を流す楽しさを満喫。
第5回・1998年4月27日

初夏を感じる好天。アースディ(地球の日)にちなんで、五色池の周辺をクリーンアップ。お昼は、焼き蛤や骨付きカルビなど本格的バーベキューにアタック。午後は、雨期に備えて水路を補強し、南側の盛り土側からの雨も流れ込むようにする。
池では、ゲンゴロウの幼虫やおたまじゃくし、アキアカネのヤゴが生息していることがわかる。コチドリの巣やカルガモが遊んでいるのも確認。このまま五色池の住人になることを願う。今回始めて池の水質検査を実施。
第6回・1998年5月19日

五色池の正式な観察会を行う。記録には、なんと86種類の動植物の名前が出てきてびっくり。五色池に入るとコチドリが私たちの回りを飛び交い、自分の縄張りだとアピール。作業は中止して、小松川橋へ向かって下流への自然観察に変更。
さて、五色池では、「たまこ」から移動してきたと思われるアジアイトトンボのヤゴやアキアカネのヤゴ、彼らの餌となるミジンコの数の多さにびっくり。五色池に自然が戻ってきたことを目と耳しっかりと確認した。
第7回・1998年6月30日

池造りは、この日でひとくぎり。「五色池完成記念!もっともっと自然よ戻れ!大パーティ」が開かれた。午後2時から五色池の自然観察会、干上がった池を観察。わずかに残った1号池の底の部分の湿った所で大きなどじょうを発見。ところが、五色池の隣の池(葛飾区の池)に鯉がたくさんいるのを見つけ、雨も降らずにわずかに残っている池の生物たちが食べられちゃう、と鯉の捕獲大作戦を決行。全部で7匹、川へと逃がした。そんなわけで、パーティは30分遅れで始まったが、「皆で汗をながして苦労してつくった五色池」への思いは強く、40人の参加で乾杯!さまざまな提案もされた。
この日、今後「池を掘る市民個人の集合体」から「荒川の自然を守り、育てていくひとつの運動体」へとすすむといいなぁという願いを込めて、会の名称を「中土手に自然を戻す市民の会」略して「中土手自然の会」とした。
五色池造りの意義とは、住民自身がスコップを持って直接池造りに参加できたことによって、自然や川に関心を持った人が何人も増えたこと。もう一つはプロジェクトを通じて住民同志の横の輪が広がったこと。もう一つは、行政と住民の理解が深まったことだと思う。




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